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床、すべての病室が中庭に面するというユニークな設計である。15室の病室が中庭を円く囲み、その外側をさらにスタッフの部屋、100人収容のホール、2つのセミナールーム、医師・ナースなどスタッフ用の宿泊室(14床)がとり囲むという三重丸の構造である。病室のテラスはすべて中庭に開かれているため、病室から木々の緑や足元の草花を眺めることができるし、気分のよいときにはベッドごと病室の外に付設されたサンルームで日射しを浴びたり、さらに広い中庭に出て他の方々と談笑したりすることも司一能である。また中庭ではパーティーが開かれることもある。
病室はトイレ、シャワー室が付設し、つくりつけの戸棚には処置用品などがきちんと整理され、また必要があれば家族のために予備のベッドを入れることもできるなど、どんな場面にも敏速に対応できるよう機能的に整えられている。
なお、緩和ケアを目的とするために痛みにきめ細かく対応する以外、積極的な治療はしないのが原則であるが、医師の判断により輸液、栄養点滴を行われている。
欧米のホスピスは一般にキリスト教的環境と深くかかわりあっているが、当施設のような公的性格をもっところでも、精神的癒しに配慮して簡素な瞑想室があり、小さなキリストの像も飾られていた。また音楽を聴くための設備も整えられていた。
4.スタッフ
当施設に入院した患者さんのうち年間約120人が死を迎える。所長のディーレマン医師と15人の常勤ナースがいるが、1人のナースは年間50人以上の患者の死と出会うことのないようにナースを9人と6人の2グループに分け、重症者と比較的軽症者とを交互に担当するように配慮されていた。
また、所長は毎日施設内の食堂でスタッフとともに食事をとるが、車椅子やベッドのままの患者さんも仲間入りすることがあるなど、小じんまりした親密感あふれる雰囲気をかもし出している。
2階のがん研究センターはがん援助協会の傘下にあり、がんに関する研究会・講演会、各種トレーニングが行われている。
5.所最・婦長を囲んで
海外のホスピスを見学していつも感心するのは、簡素ではあっても実に心のこもった歓迎を受けることである。
私たちの到着をディーレマン所長は笑顔をもって建物の外まで出迎えてくれ、まず明るい応接室に招き入れられ、ポットにたっぷりのコーヒー、紅茶、クッキーでもてなされた。初対面の挨拶のあと、この施設の沿革を説明され、施設を案内された。訪問したのは気持ちよく晴れ上がった清々しい夏の日、入院中の患者さんの許しを得て病室も見学したあと、私たち一行は緑のきらめく中庭に出て、噴水のある池や何気なく植えられた侵しい草花を賞でて、庭に面した病室を眺めわたした。開放的な雰囲気を満たしながらも各室のサンルームは垣根で囲まれてプライバシーが保持されるなど、配慮は心にくいばかりである。また、庭の風情もきれいに整えられているというよりは自然のままのようにアレンジされていたが、これも家庭的なくつろぎを演出したのであろうか。
一通りの見学を終え、先の応接室で所長と婦長を囲んで話し合いがもたれた。
所長の話によると、緩和ケア(palliative care)の“緩和(pallia)”とはラテン語で“大きな外套”という意味、ここでは文字通り寒さや風から体を守るマントのように、患者さんは悩み、苦しみ、痛みから守られているのだとのこと。この施設の使命は、がんそのものの進行は抑えることはできなくとも、いかに平安のうちに自然に近い死を迎えてもらうかということであり、そのためには患者と同じだけ患者の家族にも目を曲り、在宅ケアに移行してからも訪問回数はケースごとに設定し、ケアの教育訓練も実施している。
開設以来13年を経過したドクター・ミルドレッド・シールハウスは、緩和ケアユニットとして理想的なはたらきをしているように見受けた。
見学はできなかったが、ケルンにはもう1つ5床の独立型ホスピスがある。こちらは有料で健康保険は適用されない。このミニホスピスの所長は、もとは国立ケルン大学病院の外科に所属していた精神科医で、術後の患者のカウンセリングをしていたが、その後がん患者の緩和ケアに関心をもち、独立してホスピスをつくったとのこと。このような枝葉の広がり方もホスピスムーブメントのひとつのありようを示している。

 

 

 

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